人道支援のこれから。
- peacecellproject
- 5月26日
- 読了時間: 3分
更新日:5月28日

「常識の革命を起こす」
2025年1月20日、アメリカ合衆国大統領に二度目の就任を果たしたトランプ氏の言葉だ。関税の大幅引き上げ、WHOやパリ協定からの脱退、反多様性。いずれも、世界中で大混乱を引き起こしている。
そして、アメリカの対外助機関であるUSAID(米国際開発局)の活動停止は、人道支援の現場で深刻な影響が出ている。世界各地で、難民キャンプの病院が閉鎖に追い込まれたり、難民受け入れの停止、迫害されている人々への支援の打ち切りなど、にわかには信じ難い状況が突如として起きた。NGOが多く拠点にしているここイラクのドホークにおいても直接的影響は大きく、私の周りでも「プロジェクトが停止された」「事務所を一部閉鎖した」「解雇された」など悲鳴のような訴えがあちこちで聞かれた。
現在では、緊急性が高いと判断されるプロジェクトのみ再開されたが、それはごく一部であり、プロジェクト期間が過ぎればどうなるかはわからないわけで、根本的解決にはなっていない。幸い、私たちピースセルプロジェクトは独立性を保つため、政府系の資金は申請しないので、影響はなかった。しかし、これは人道支援全体に関わる深刻な問題だ。トランプ氏は、確かに「常識」を破壊したのだ。
人道支援についてあらためて考えてみたい。国連OCHA(人道問題調整事務所)のデータによると、まず、国連はその資金を大きくアメリカに依存している。アメリカの拠出は全体の40%と圧倒的で、2番目のドナー国であるドイツは8.5%にとどまる。そして、アメリカの資金の多くが、WFP(世界食糧計画)、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、WHO(世界保健機関)、ユニセフ、IOM(国際移住機関)など国連機関に提供されている。国際NGOもアメリカの資金でプロジェクトを運営しているところは非常に多い。今回のUSAIDの活動停止が尋常ではない影響を及ぼしたことはこれらのデータを見るだけでもわかる。
人道支援ニーズはどうだろう。2005年のUNHCR難民報告書が、それまで減少傾向にあった難民の数が急速に増加したと報告していたことをはっきりと覚えている。なぜなら、それはイラクとアフガニスタン、対テ口戦争で家を追われた人たちのことだったからだ。
以来、世界の難民・国内避難民の数は記録を更新し続け、この20年で、人道支機ニーズは10倍くに増大している。紛争はなくなるどころかあちこちで勃発し、経済危機、気候変動も人道危機を招いている。しかし、供給はその40%~50%しか届けられていない。
実は、対外援助予算の削減はアメリカだけではない。以前からドイツ、イギリス、スウェーデン、フランス、そしてスイスなどがすでに予算を削減していた。背景には、国内経済の悪化や移民排斥の世論の高まり、ウクライナロシアの戦争をきっかけに国防費が増大したことなどがあるようだ。
イラク戦争からずっと緊急支援に携わってきて、いつも思っていたことがある。戦争を始める時は際限なくお金はあるのに、人を救うお金はいつも足りない。寄付額は戦争の生み出す被害をカバーするには遠く及ばない。ならば、暮らしのために買うすべての物が、誰かと分け合う形になったら、世界は良くなるのではないだろうか。そう考えて、7年前にチャリティショップを始めた。微力ではあるが、その売上をイラクでの人道支援に充てている。
今回のUSAIDの件で、人道支援セクターは変わらざるを得ないと確信した。世界の人道危機は政府予算だけでは賄えないし、紛争当事国の資金を使えば、支援の現場での安全性も損なわれる。これからは、平和産業を生業とする民間企業の団結がより必要とされるのではないか。将来、紛争地の緊急支援の現場で、国連のロゴではなく企業のロゴを身につけたエイドワーカーが奔走する日が来るかもしれない。
(季刊PEACE CELL LETTER 連載 髙遠菜穂子の『分断を繕う』より)
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